東京地方裁判所 昭和32年(レ)42号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕被控訴人は前主金子理助から本件土地を買い受け所有権を取得したが、本件土地はさきに控訴人が期間を区画整理の実施されるまでの間と定めて金子から賃借し、家屋を所有して八百屋営業をしていた。被控訴人は、(イ)控訴人と金子との間の賃貸借を承継することを合意したことはない、(ロ)右賃貸借は昭和三三年二月二二日都知事により効力発生の日を同年三月二〇日として本件土地につき仮換地の指定があつたから約定期限の到来によつて終了した等の理由で、控訴人が本件土地につき賃借権をもつていないことの確認と家屋収去土地明渡とを求めた。そして右仮換地の指定によつて土地所有権に基いて本件土地を使用収益することはできなくなつたが、使用収益を禁止されていることは、不法占有者に対する所有権に基く妨害排除請求権の行使を妨げるものではないと主張する。
判決は、金子と控訴人との間の本件土地賃貸借契約は、区画整理が実施されるまでを期間とする一時使用のためのものであつたと認定し、その賃貸人たる地位が被控訴人に承継されたことを認め、ここに「区画整理実施の時」というのは「区画整理によつて本件土地を使用できなくなる時」を指すものと解するのが相当であるから、仮換地指定の効力が発生した昭和三三年三月二〇日に約定期間が経過したものと判断して、賃借権不存在確認を求める被控訴人の請求は理由ありとしたが、家屋収去土地明渡請求については、次のように判示して請求を排斥した。曰く、
「土地区画整理法第九十五条によつて、被控訴人は昭和三十三年三月二十日から右仮換地指定によつて本件土地の仮換地に指定された土地については、所有権と同一の使用収益権を有しているが、本件土地を所有権に基いて使用収益することはできなくなつたことになる。そこでこのように土地所有権者ではあるけれども、その所有権に基く所有地の使用収益をすることが法律上できないものが、所有地の不法占有者に対して明渡を求めること、すなわち所有権に基く妨害排除請求をすることができるかどうかについて考えてみる。土地所有者がその所有地の不法占有者に対して明渡を求めることができるのは、所有地が占有されることによつて、土地所有者はその所有地を物理的にも自由に使用収益すること(所有地の土地としての使用価値を自由に利用すること)ができるという所有権者であることによつて与えられた法律上の利益を享受することを妨害されることになるから、その妨害を除去して、右の利益を享受し得る状態を回復するためである。ところで土地所有権者ではあつても、法律上その所有地を物理的に使用収益することができないことになつている場合には、不法占有によつて、享受することを妨害されている法律上の利益、すなわち不法占有の除去によつて享受することができることになる法律上の利益をもつていないことになるから、不法占有者に対する妨害排除請求権も有しないと解するのが相当である。(したがつて土地所有者が法律上所有地の使用収益ができない場合でも、所有地を使用収益することと直接関係のない請求権、例えば登記上の請求権――これを物権的請求権と解するとしても――の行使については、何等の制限を受けないことは当然である)そして本件についてみても、被控訴人は本件土地の仮換地について所有権と同一の使用収益権を有し、被控訴人が右仮換地を所有地と同様に使用収益することを妨害するものに対しては、右の使用収益権に基いてその妨害の排除を請求できるのであるから、前記のように解しても、仮換地の指定によつて被控訴人が不利益を蒙ることにはならないのである。」